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更新日:2023年2月13日
こんにちは。唐津市水産業活性化支援センターの村山です。
唐津市では、平成24年度から九州大学と共同研究で、「新水産資源創出研究プロジェクト」に取り組んでいます。このプロジェクトでは、水産業の活性化と地域の活性化を目指して、唐津市の相賀にある唐津市水産業活性化支援センターで、マサバなどの完全養殖技術の開発、ケンサキイカの先端的研究、バイオ水産技術の開発を実施しています。
今回は、バイオシリーズの続きと、ケンサキイカの研究情報についてお知らせします。
センター便りVol.10(別ウィンドウで開きます)で、カタクチイワシが研究対象としてとても魅力的な生き物であるという6つの特徴をあげましたが、今回は、その6つの特徴を詳しく説明したいと思います。
ふ化直後のカタクチイワシは、数ミリ程度の透明な身体で、目を凝らさないと見えないほどです。しかし、日に日に大きくなり、約100日という短い日数で、卵を産む親にまで成長します。
次世代に命をつなぐ時間を「世代交代(せだいこうたい)期間」と言いますが、これが短いほど、その生物を研究する時間を短縮することができます。カタクチイワシの成長の早さは、大きな利点です。
私たちはよく、親の特徴がどのように子どもに受け継がれるか?といった研究を行います。みなさんもよく耳にする「遺伝(いでん)」に関わることですが、カタクチイワシはたくさん卵を産みますので、その子どもをたくさん育てることができます。
飼育が難しい生物は手間がかかるだけでなく、その生物が死ぬようなことがあれば、何年もの努力がすべて水の泡になってしまいます。その点、カタクチイワシは飼育が比較的簡単で、取り扱いにも特別な注意を必要としません。
環境を整えれば、カタクチイワシは一年中卵を産み続けます。また、人工照明で卵を産む時間のコントロールさえ可能です。
このことから、研究に必要な卵を、一年中好きな時間に得ることができます。
センターのカタクチイワシは冷暖房完備の部屋の中で、人工照明で飼育されています。
とても贅沢ですね。
カタクチイワシの卵は透明なので、その胚発生(受精した卵が細胞分裂を繰り返して仔魚にまで成長すること)の様子を、つぶさに観察することができます。
このような研究を「発生生物学(はっせいせいぶつがく)」と呼びますが、生命の不思議を明らかにするためには、とても重要な研究分野です。
我々は、研究対象として扱いやすいカタクチイワシを用いて、魚類、特に海産養殖魚に共通する様々な生命現象を明らかにし、その知識をもとにした新しい養殖法の開発を目指しています。
身体のサイズは飼育のしやすさに関係します。しかし、例えばメダカなどを研究対象にすると、養殖魚にとって一番重要な、肉質の評価などが難しくなります。その点、カタクチイワシは成魚で十数センチと、大きすぎず小さすぎず、適当な身体サイズと言えます。
さて、私たちが考えるカタクチイワシの6つの特徴を述べてまいりました。
研究対象として、カタクチイワシがとても優れていることがお分かりいただけたでしょうか?
そこで次回は、センターで行っているカタクチイワシを用いた研究内容について、紹介したいと思います。
海に住む生き物の繁殖力(親が生むことのできる卵の量や、ふ化した子どもが生き残る数など)は、季節や気候の変動に伴う環境要因の影響を受けることが知られています。その中でも特に重要なのが、「水温」と「餌の量」であると考えられていますが、生き物の種類ごとに最適な水温と餌量が異なっているので、それぞれ1つ1つの種類ごとに評価をする必要があります。特に漁業の対象となっている種において繁殖力を明らかにして把握することは、持続的な資源利用を行う上で不可欠となります。
親の産卵量に関しては、水温と与える餌の量を人為的に調節することができる水槽内で飼育して産卵させてみれば、環境要因との関係を明らかにすることができるはずです。
そこで、交接痕(センター便りVol.12(別ウィンドウで開きます)参照)をもつメスに給餌(1日に体重の8%の量)して水槽で飼育し、産卵が行われた日と卵嚢(らんのう:卵の入ったゼリー状の房)の数を観察してみました。
写真の上が卵嚢で、下はその拡大写真です。
15日間の飼育で5回の産卵が観察され、産出された卵嚢の合計は50個を超えていました。
今回は結果の一部を紹介しましたが、今回よりも水温が高い場合、低い場合、さらには餌が多い場合、少ない場合では、産卵回数や卵嚢の数は多くなるのでしょうか。それとも少なくなるのでしょうか。今後の結果をお楽しみに。
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