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更新日:2019年9月20日

水産業活性化支援センター便り~Vol.30

ご挨拶

唐津市では平成24年度から九州大学との共同研究で「新水産資源創出研究プロジェクト」に取り組んでいます。このプロジェクトでは水産業の活性化と地域の活性化を目指して、相賀の水産業活性化支援センターでマサバなどの完全養殖技術の開発、ケンサキイカの先端的研究、バイオ水産技術の開発を実施しています。
前号では唐津Qサバの種苗生産の状況をお伝えしました。今年も唐津Qサバの生産は順調です。皆さんにおいしいサバをお届けできるよう、生産者の方も頑張っています。
さて、当センターでは唐津Qサバの技術開発を進めるために種苗生産とは全く別に、サバを使った基礎科学に関する研究やバイオ技術開発を行っていることをご存知でしょうか。今回は、Qサバ種苗生産以外のサバを使ったバイオ技術研究の中から、ゲノム編集技術を応用した品種改良技術の開発についてご紹介いたします。

ゲノム編集とは

最近、メディアでも多く取り上げられるようになったゲノム編集という言葉をご存知ですか?私たち生きものには、それを形づくる設計図となる遺伝子があり、遺伝子情報をまとめた設計図集を染色体と言います。例えば、ヒトは染色体を23組(46本)持っています(23本は父親からもらい、23本は母親からもらう。これらがペアとなり23組に分かれる)。設計図集が23巻まであるイメージです。この23巻の設計図集をまとめた「設計図全集」がゲノムです。ゲノム編集とはその名の通り、ゲノムの中の遺伝子情報を自由に書き変える技術です。

ゲノム編集による育種・品種改良

ゲノム編集を用いた農水産物の育種・品種改良が注目されています。例えば、京都大学と近畿大学は、ゲノム編集によって、食べられる部分が多いマダイの開発に成功しました。これは筋肉が過剰に作られることを抑えている遺伝子を編集し、働かなくしたものです。つまり、ブレーキの役割をしていた遺伝子が働かなくなることで筋肉がたくさん作られるようになり、私たちが食べる“身”の部分が多くなった品種です。マダイの可食部は40%と言われるので(6割は骨や内臓などで、その多くは捨てられる!)、画期的な品種改良だと言えます。このように「こんな品種を作りたい」というアイデアがあった場合、それに関連する遺伝子を編集することで、狙った通りの性質をもつ魚を作り出すことができます。もちろん魚だけではありません。国内では、血圧の上昇を抑える成分が多いトマト、毒性物質を含まないジャガイモ、卵アレルギーの人でも食べられる卵そして高収量の稲などが開発されようとしています。

ゲノム編集の利点

品種改良という言葉は私たちにもなじみがあります。栄養価の高い野菜、甘いフルーツや種がない作物など品種改良で作られたたくさんの農作物がスーパーマーケットに並んでいます。また、畜産物も実は品種改良の成果物です。野生のウシやブタを好んで食べる人はいないでしょう。どう猛な野生動物を家畜化して育てやすくしたり、やわらかくおいしい肉質にするなど、何百年という品種改良の歴史があります。従来の品種改良の多くは、たまたま現れた良い性質を持つ個体を何世代も交配させて、やっと品種として固定するものです。つまり、偶然の幸運と長い年月が必要でした。ゲノム編集では、改良のきっかけとなる良い性質を持つ個体を狙い通りに短期間に作り出すことができます。また、3世代ほど交配させると品種として固定することができます。ゲノム編集は、従来の品種改良にかかっていた時間を圧倒的に短縮する技術と言えます。
(余談ですが、魚はほとんど家畜化が進んでいない動物と言えます。天然モノの動物が喜ばれるのは、魚ぐらいのものでしょう。)

ゲノム編集食品の流通・販売

今年の夏に厚生労働省はゲノム編集により開発された農水産物の流通・販売を認めました。今後、国内で開発されたゲノム編集食品は事前の届け出のみで販売が可能になることが予想されます。また、アメリカでは穀物類についてはゲノム編集による品種改良を規制していません。今後、ゲノム編集による品種改良は多国間での競争が激化することが予想されます。将来、ゲノム編集により品種改良されたトウモロコシなどが、スーパーマーケットの店頭に並ぶようになると思われます。

安全性は?

ゲノム編集では遺伝子を編集します。こう言うと遺伝子組み換え?と思う人も多いのではないでしょうか?
しかし、遺伝子の編集と遺伝子組み換えは決定的に違う技術です。遺伝子組み換え技術とは、ある生物に外来の生物の遺伝子の一部を組み込む技術です。例えば、病気に強いトウモロコシを作る場合に、耐病性に優れた微生物の遺伝子の一部をトウモロコシの遺伝子の中に組み込むといった具合です。ただ、このような外来遺伝子をもつトウモロコシは自然界には存在しないため、遺伝子汚染につながる危険性があります。また、遺伝子を組み込むときも、どこかを狙って正確に組み込むことは技術的に困難であり、どこでもいいから放り込むといった感じです。もしも、外来遺伝子の導入によってトウモロコシが本来持つ重要な遺伝子が壊れてしまった場合、未知のリスクが増えることが考えらえます。一方、今回食品として認可されるゲノム編集は、外来遺伝子の組み込みを行わず、本来その生物が持っている遺伝子を編集するものです。まず、遺伝子を切断する酵素(ハサミ)を使って、狙った遺伝子の狙った部分のみを正確に少しだけ切り取ります。これによりその遺伝子は働かなくなります。つまり、「ゲノムのどこがどうなったのかわからない」といった、私たち研究者が把握できないような不確実性がほとんどありません。予期せぬ毒性物質やアレルギー物質の産生などの危険性は低いと言えるでしょう。安全性については問題ないと考えています。

ゲノム編集技術を使ったサバの品種改良

私たちは、ゲノム編集技術を使ったサバの品種改良を研究しています。サバは稚魚の時期に激しく共食いをする性質があり、生産量や生産効率を下げるため大きな問題となっています。私たちの研究センターの飼育環境では、稚魚は生後14日前後に最も活発に共食いをします。この時期は1分間水槽の中を眺めているだけで、あちらこちらで5~6件は共食いしあっている様子が見られます。

1分間に5尾食べられたとします。すると、1時間で300尾、1日で7,200尾の計算です。つまり、共食いが活発な時期は、わずか3日程度であっという間に2万尾以上の稚魚がいなくなってしまいます。現在の育成技術では、卵から10cm程の大きさの稚魚に成長するまでに1割ほどしか生き残りません。共食いを抑えることにより生残率を4割から5割程度まで上げることができると、従来までと同じコスト、同じ労力で何倍もの魚を生産することができます。共食い行動を減らし生産効率を上げるために、私たちはサバの攻撃性に関わる遺伝子のゲノム編集を試みています。将来的に、おとなしく飼育しやすいマサバの新品種を作ることを目指しています。
これまでの研究で、目的の遺伝子が働かないサバを作り出すことに成功しました。これはもちろん世界初です。現在は、「本当におとなしくなったのか?」その性質を詳しく調べているところです。この取り組みが注目されており、アメリカ・ラスベガスで開催された米国水産学会主催の国際会議での公演機会を得るとともに、NHKの「おはよう日本」や「クローズアップ現代+」、TBSの「報道特集」といった全国放送の報道番組でも紹介されました。

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マサバ受精卵への人工酵素(ハサミ)の顕微注入

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ゲノム編集したマサバ稚魚

ゲノム編集技術を使った育種・品種改良の今後

私たちの取り組みが成功すると、将来的にはサバを大量に生産し、安定して供給することが可能になります。
最近、サンマが獲れないというニュースが相次ぎました。身近な秋の味覚です。また、サバやアジなども資源量が減少しています。マグロやウナギなどの高級魚だけではなく、サバ・アジ・イワシ・サンマといった、日本人の食文化に深く根付いた庶民の魚と言われるような魚たちも、今後は養殖によって作り出していかなければならなくなることも考えらえます。世界に目を向けるとどうでしょうか。世界的には人口の爆発的な増加が進んでいます。陸上に動物性タンパク源を求めることには限界があり、今後は地球の表面積のおよそ7割を占める水面からの食料生産への需要が伸びるでしょう。近い将来、水産物をめぐる世界的な競争が激化することが考えられます。ゲノム編集技術を使って品種改良を行い、我々にとって良い性質をもつ魚を大量に安定して作り出す養殖技術の開発は、唐津市の水産業の活性化に繋がるだけではなく、将来的には世界の水産業の活性化や食料生産量の増大につながります。ゲノム編集技術は農水産物の育種・品種改良に革命をもたらす切り札だと言われています。ゲノム編集技術を使った養殖魚における次世代型の品種改良研究について、唐津市から世界に向けて、引き続き情報を発信していきたいと思います。

問い合わせ

水産課 

〒847-8511 佐賀県唐津市西城内1番1号

電話番号:0955-72-9130