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更新日:2020年5月15日

水産業活性化支援センター便り~Vol.32

ご挨拶

唐津市では平成24年度から九州大学と共同研究で「新水産資源創出研究プロジェクト」に取り組んでいます。
このプロジェクトでは水産業の活性化と地域の活性化を目指して、相賀の水産業活性化支援センターでマサバなどの完全養殖技術の開発、ケンサキイカの先端的研究、バイオ水産技術の開発を実施しています。
前号でお知らせしましたように、8年間のプロジェクトは3月で終了となりました。今回は、8年間の研究の内容について、その一端をご紹介いたします。

このプロジェクトの中からは、唐津市と九州大学で共同開発した完全養殖マサバである「唐津Qサバ」が生まれました。すでに市内外の旅館や飲食店、さらに国外でも提供されており、知名度もどんどん上がっています。
唐津Qサバの生産はこれからも続いていきます。引き続き皆さんへ、新鮮で安全で美味しいマサバを提供できるよう努力いたします。
さて、実は当センターでは唐津Qサバの生産技術開発とは別に、マサバを使った基礎科学に関する研究やバイオ技術開発を行っています。
研究は大まかに、マサバの繁殖生理メカニズムの解明を目指す研究、マサバの育種・品種改良に関する研究に分けることができます。
これらは、ゆくゆくは唐津Qサバの生産性の向上を目指したり、更なる付加価値をつけていくための研究でもあります。もっと簡単な言葉で言うと、これらの研究は唐津Qサバをもっとすばらしいものにすることができる研究です。
それではこれまでの取り組みや成果をご紹介いたします。

マサバの繁殖生理メカニズムの解明を目指す研究

“持続可能な養殖を目指して”

唐津Qサバの素晴らしい点はなんでしょうか?我々が皆さんに説明する際にアピールすることは、寄生虫の感染リスクがほとんどなく、お刺身のまま安全に美味しく食べられますと言う点です。
一方で、唐津Qサバが全国的にも珍しく優れている点は、完全養殖であるということです。従来までの養殖スタイルは稚魚や幼魚を海から獲ってきて大きく育てるというものでした。しかし、この方法では安定的な生産が困難です。また、天然資源にも大きな負担をかけてしまいます。kannzennyousyokusaikuruzu
完全養殖とは、卵の孵化・稚魚から親魚への育成・採卵を人工管理下で繰り返す養殖スタイルです(図:完全養殖とは)。完全養殖では、種苗(稚魚)はすべて採取した卵から育てたものであるため、漁獲量の影響を受けず、安定した生産が可能です。また、天然資源の保護にも役立ちます。完全養殖の一番のメリットは持続可能な養殖スタイルであるという点です。

完全養殖を実現させるために一番重要なことは、親魚から確実に受精卵を採取するという点です。そのためには、対象魚種の体内でどのような経過を経て卵や精子が成熟するのかという、繁殖生理のメカニズムを詳細に知る必要があります。
私たちヒトや魚などの繁殖システムは、全て内分泌ホルモンによって極めて精密に調節されています。さまざまなホルモンがそれぞれどのような役割をして、マサバの繁殖生理を調節しているのかを一つ一つ明らかにする研究を続けています。これらの知見が蓄積されることにより、将来的には今よりもさらに計画的に効率的に採卵が行えるようになるでしょう。これらの研究に関する詳細は、水産業活性化支援センター便り~Vol.26で詳しく説明しています。
マサバの繁殖生理メカニズムの解明を目指す研究では、これまでにさまざまな最先端の知見が得られており、5編の研究論文を国際的な学術雑誌に発表予定です。また、アメリカのラスベガス、オーストラリアのシドニー、フィリピンのイロイロ市、東京や静岡など、世界各地で開催された水産科学の研究に関する国際会議で登壇し、唐津市と九州大学の取り組みについて講演する機会を得るなど、我々の先端的な取り組みは、国際的にも注目を浴びるようになってきました。

マサバの育種・品種改良に関する研究

“さらに高品質を目指して”

魚の育種・品種改良というと、“?”と思われる方も多いでしょう。実は、スーパーマーケットなどで売られている肉類や野菜や果物などは、そのほとんどが品種改良されたものです。
お肉などはより柔らかく、果物などはより甘くというように、野生種よりもより良い性質を持つように品種改良がなされてきました。
畜産物や野菜などとは異なり、魚だけはいわゆる“天然モノ”が好まれる傾向があります。しかし、天然魚の漁獲量はここ30~40年間横ばいの状態で、漁獲量の伸びは期待できません。これからはますます養殖生産の重要性が高まります。魚も、天然モノよりも良い性質をもつように品種改良をしていくことが重要になります。
従来までの品種改良は、たまたま良い特徴を持った突然変異個体を選び出して、何世代も交配させていくという方法で、非常に長い年月がかかる上に不確実性の多いものでした。一方で、近年開発されたゲノム編集技術は、品種改良の出発点となる優れた突然変異個体を高い精度で人為的に作出することができます。ゲノム編集技術の登場で、今まで100年以上かかっていた品種改良がわずか数年でできるようになりました。また、自己以外の外からの遺伝子の導入を行わないため、遺伝子組換えに該当しない点も重要なポイントです。
去年の夏に、厚生労働省はゲノム編集技術で品種改良された食品の市場流通を認可しました。これから、さまざまな形で市場にも出回るようになることが予想されます。
当センターでは、ゲノム編集技術にいち早く着目し、魚の品種改良へ応用する研究を行ってきました。現在行っている研究は、ゲノム編集技術を用いて、マサバの稚魚期の共喰い行動を減らそうという取り組みです。
マサバは稚魚期に激しく共喰いをする性質を持っており、生後1ヶ月ほどの間に約9割が死んでしまいます。品種改良により共喰いを減らすことができれば、今よりも効率的に大量生産することができるようになります。生産量が上がるということは、低コストでの安定生産にもつながりますし、その分皆さんにもお安く提供ができるようになるかもしれません。
生産者と消費者双方にとって有益な品種改良であると言えます。これらの研究に関する詳細は、水産業活性化支援センター便り~Vol.30で詳しく説明しています。
ゲノム編集技術を用いたマサバの育種・品種改良に関する研究は、全国から注目されています。これまでにNHKの「おはよう日本」や「クローズアップ現代+」、TBSの「報道特集」といった全国放送の報道番組で紹介されました。また、講演依頼や書籍などの執筆依頼も多数頂いております。

さいごに

“魚類養殖は食料供給の切り札”

図は世界における水産物生産量の推移を示したグラフです。世界的な人口増加や魚食ブームにより水産物の需要は増え続けています。また、将来予想される食糧難の時代において、地球の表面積のおよそ7割を占める水圏は、動物性タンパク質の有力な供給元となります。
漁獲漁業は80年代で頭打ちとなっており、限界を迎えていることがわかります。増え続けるタンパク質需要に応えていくために、養殖魚の生産量を増やしていくことが求められています。特に、持続可能な養殖スタイルである完全養殖をベースに、ゲノム編集による高精度の品種改良技術を積極的に導入した、次世代型の養殖システムの開発が今後の鍵となるでしょう。
私たちの研究は、一義的には唐津市の水産業の活性化を目的としたものです。しかし、それだけではなく、子供たちの未来に豊かな水産物を残すための研究でもあります。8年間の研究で得られた知見は、すぐに役に立つものばかりではありませんが、素晴らしい未来につながる一つのステップになると確信しています。


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図.国際連合食糧農業機関が公表している、世界の水産物生産量の推移。横軸が年代、縦軸が生産量(百万トン)を示す。オレンジは漁獲漁業、ブルーは養殖生産量を示す。

出典http://www.fao.org/state-of-fisheries-aquaculture

 

問い合わせ

水産課 

〒847-8511 佐賀県唐津市西城内1番1号

電話番号:0955-72-9130